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本から閃き

【読書感想】『天才を考察する-- 天才を考察する―「生まれか育ちか」論の嘘と本当』

天才を考察する―「生まれか育ちか」論の嘘と本当-

 

内容紹介
アインシュタインら歴代の天才を対象に行なわれた「天才研究」から最新の遺伝子・ゲノム理論、発達心理学の成果までを簡潔かつわかりやすく紹介しながら、古い論争がいかにナンセンスであったかを説く、出色のポピュラー・サイエンス。

 

題名通り、歴史に名を残してきた「天才」たちを考察する本だ。例えばクラシック音楽家の代表のひとりであるモーツァルトは幼少期からその天才ぶりを発揮してきた。しかしそれはモーツァルトが優れた才能を持って生まれてきたためだろうか。才能もあったかもしれない。しかしモーツァルトの才能を決定づけたのは、父レオポルトによる幼少期からの英才教育が多分に影響している。

またテッド・ウィリアムズマイケル・ジョーダン、ヨーヨーマなどの各分野で功績を残した人々を例にとり、才能の裏側にあった事実を紹介している。

 

才能は遺伝的に決まっているものだろうか。本書で取り上げられた科学的検証の中でも、とくに興味深いと感じたものを二つ取り上げる。

 

・利口ネズミと愚鈍ネズミの実験

迷路を通り抜けるテストで、成績が良い「利口ネズミ」と成績が悪い「愚鈍ネズミ」を以下の三つの環境で過ごさせたあと、再度同じテストを受けさせる。

①豊かな環境(鮮やかな色の模様を描いた箱に刺激の強い玩具を置く)
②普通の環境(ごく普通の箱の中に運動神経と感覚神経を刺激する玩具を少しだけ置く)
③制限された環境(基本的に餌入れと水入れを置いただけ)

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結果、普通の環境では成績の差は縮まらなかったが、豊かな環境で育てると、愚鈍ネズミの成績が大幅に向上し、利口ネズミとの成績の差は僅差になった。遺伝的な違いは環境によって覆しうることがこの実験でわかる。

 

またほかにも後天的な環境によって大きく姿や能力を変化させる生物がいる。

・ウミガメとクロコダイルは、卵のときの周囲の気温によって生まれる子の性別が決まる。

・バッタは、生まれた直後は体色が黄色いが、ある年齢で黒っぽい(高温によって焼けた)環境にさらされると、黒っぽくなる。

・イナゴは、密集した環境で生まれ育つと、そうでない場合に比べて筋肉が発達する(移動に適した体格になる)。

遺伝子によって全てが決定づけられると考える人たちにとって、環境によって形質を変える生物たちをどうみるだろうか。遺伝子と環境は相互作用によって互いに変化していく。そしてこれは人間にも当てはまるといえる。 

 

特定の経験に応じ、脳の特定の部分が自らを構築しなおすのである。「大脳皮質は環境変化に応じて自らを再構築するいちじるしい能力を有する」とハーヴァード大学の精神医学者レオン・アイゼンバーグの論文にも記されている。

 本書ではこれを「可塑性」と呼んでいる。人間は自分の求めるとおりに能力を変化させられるのだ。

 

・易しいパズルか、難しいパズルか

学生たちに易しいパズルを解かせた後、

①生来の知能を賞賛するグループ

②努力を賞賛するグループ

に分けて、その後の行動を観察した。

学生は再試験という名目で、別の易しいパズルか、もっと難しいパズルのいずれかを選ぶよう指示される。

結果はつぎのとおりだった。

・生来の知能を称賛された生徒の半数は易しいパズルを選んだ。

・努力を称賛された生徒のなんと90パーセントは難しいパズルを選んだ。

「頭の賢さよりも努力したプロセスをほめる」ことが、さらに難しい課題に挑戦しようと思う意欲を与えられるのだ。

 

あるタイプの訓練活動に熱意をもって頻繁に打ち込めば、生理的な緊張が引き起こされ、それによって生化学的な変化が生じ、その刺激のために細胞の成長と転換が促されるとともに、生理系統および脳の適応が進む

本書では、世間一般で考えられてきた「天才」や「才能」といった存在を覆す内容になっている。また、本書で紹介される数々の科学的検証から、人間には「必要に応じて自分自身を変化させる力」を誰もが持っていることを一貫して著している。

特に重要なのは「環境」で、それはつまり自分の意志だけで成長するのは難しいということだ。成長したいのなら、困難だが実りある環境に身を投じる必要があるのだろう。